考える人に100のお題 028 現在の自分と過去の自分
昨晩、お酒とさきいかの入ったコンビニ袋を提げてチャリを漕いでいた。
すると、川の堤防沿いの向こうに赤い小さなランプの光が見えた。
あれは消防団の倉庫の明かりである。
昔むかしのこと。と言っても大学1年のときのこと。
自分の大学ではオリエンテーションキャンプとか言うイベントが毎年ある。
4月に入ってきた新入生の友達作りを助ける目的だとかそんなヤツである。
俺も1年の時には参加していた。
実際にキャンプが行われるのはGW前後だから
それまでの1ヶ月間はほぼ毎晩先輩達と遊びに行ったりする。
そして、その日のことである。
ボーリングをして帰ったその日。俺は家が同じ方面のやつらで帰った。
一人は出身地が同じと言うことで仲良くなったヤツで、
もう一人はブルーウェーブのスピードスターに似ていたことから
俺らは「イチロー」と呼んでいた。
あるいは、その無精ひげをたくわえ、
しかも寡黙な様子から「武士」とも呼ばれていたらしい。
ともかく、その日は3人で帰っていた。
前を走っていたヤツが突如として暗い道へはいる。
俺は自転車のライトを点けた。
ライトは点くのに時間がかかったが、それは少し蹴りを入れれば治ることだった。
しかし、その日は運の悪いことに自分の蹴りが前輪に挟まったのである。
自転車の車輪は止まり急ブレーキがかかった。
俺の体は前方に投げ出された。咄嗟に体を反転させたせいで腰を強打した。
チャリは歪んでいた。
その当時、相川七瀬が好きだと言った武士は
『恋心』を歌ってくれた。
半分ヤケになっていたのだろう。
その横では同郷出身のやつが俺のチャリを抱えていた。
その日はお酒は飲んでいなかったものの時刻は11時を回っていた。
そんな中、俺達は武士が知っていると言う
自転車屋までチャリンコを順番に抱えながら、運んだ。
今にして思えば、若気の至りか勢いか。
あの時は、ただありがたいとしか思っていなかったが。
そして、その時通った道。それがあの赤いランプの倉庫だったんだ。
自転車を漕いでいた俺は衝動的に赤いランプのほうへ曲がり角を曲がった。
そのことに理由はなかったけれど、
なんとなくあの時と同じ道を辿ってみたかった。
あの苦労して自転車を抱えた道。
当時は道を知らなくて通った場所は実は遠回りだったこと。
そんなことを思い出したけれど、
自転車を漕いでいたらあっという間に自転車屋に着いてしまった。
全然つまらなかった。
そこで旧国道沿いにもう少し自転車を漕いでみる。
もはや、自分の家とは逆方向だ。
漕ぎ出してすぐ、年中無休の夜中にしか開いてないビデオ屋が見える。
勘弁してくれだ。
俺は今、見えない過去を追いかけてるんだ。
でも、そう少し行くと今度は真夜中のローソンが強烈な光を放っていた。
更に行くと、今度はガラガラのガストだ。
夜空の下で過去を探していたつもりが
ふいに現れた夜の光で現実の今日を認識する。
その時、一緒にチャリを抱えた同郷のやつとは
酒まつりの時に偶然会ってすこし話をした。
でも武士とは学校にあまり来てなかったから、あれ以来ほとんど話していない。
たまに見かけても話しかけるのを瞬間、躊躇してしまう。
過去でどうであろうとも、
時間の経ってしまった現在(イマと読んで欲しい)ではそれも気まずい。
ガストまで辿り着いてしまった俺は
自転車を家の方へと向けた。
来る時よりもずっと速いスピードで急いで漕いだ。
アジカンの『君の街まで』を聴いていた。
そもそもイヤホンから流れてきた曲を最後までちゃんと聴きたいがために
チャリを家とは逆方向に漕ぎ始めていたはずだった。
何度目かの『君の街まで』を聴きながらふと思う。
夜中に聴くアジカンと
首に巻いたマフラーの上にのせた顔にあたる夜風のせいで
俺は気分のまかせるまま遠くまで自転車を漕いでしまった。
そんな夜がまさに昨日だったんだ。
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